熊野古道支店

近露にある熊野古道支店

 

世界にふたつしか存在しない「道の世界遺産」、そのひとつである熊野古道。和歌山県の田辺市にある近露(ちかつゆ)は、熊野古道・中辺路の中間地点にひっそりと佇む小さな村です。山々に囲まれ、その盆地の真ん中にエメラルドグリーンの輝く日置川が流れるこの里山集落は、かつて熊野参詣で賑わった要衝の宿場町でした。恵まれた気候風土、おいしい食べ物、フレンドリーな人々と、移住者を魅了する地域としても知られているのですが、他県から旅をする来訪者にとっては近露は奥のまた奥地。そんな辺境地に私たちのオフィスがあります。

 

奥ジャパンは、2015年4月に古道を歩くお客様へのサポートが目的でこの集落に熊野古道支店を開設しました。あともうひとつの大切な目的は、私たちの存在意義とも言える、旅行会社としてだけではなく、地域の一員となって活動することです。

 

熊野古道支店開設のきっかけ

 

開設のきっかけは、2014年の社内研修旅行で実施された、事業をより良くするためのアイデアコンテスト。私たちは旅行会社として長らく全国各地の田舎をメインに自然環境に負荷をかけない、地域の歴史・文化の保全に貢献するサステナブルな旅を作って送客してきました。しかし、この活動だけが本当に持続可能と言えるのだろうか、地域にとって本質的に良いことは何なのだろうか、という疑問を持ち続けていました。外からお客様を送り、地域経済への寄与という観点からは役割を果たしているけれど、観光資源を使わせてもらっていることに感謝し、実際に拠点を設け、地域に入って地域の課題を見つけ、その問題的状況に対処していくことも肝要なのでなないか、という考え方が根っこにあります。

 

 

アイデアが採用された後は、すぐに行動というのが私たちのスタイル。オフィスになるような物件を探していたところに、 「えーとこあるよ~」っと、素敵な古民家を所有されているオーナーの丹田さんとつないでいただいたのは、その想いに賛同してくださった民宿ちかつゆの木下さんでした。築100年を超える建物、そこで生まれ育った丹田さんにとっては思い出の詰まった大切な場所だったこともあり、私たちが持続可能な観光を通して地域に貢献することを条件に貸していただけることになりました。いくら旅行会社として送客実績があるからといって、よそ者である私たちが簡単に入っていける場所ではないのは当然で、その際に橋渡し役としてご尽力いただいた木下さんと賃貸を承諾してくださった丹田さんのお二人には本当に感謝しています。

 

古民家をリノベーション、同じ船に乗ってくれる仲間の採用、オープニングセレモニーの準備、それまで接点のなかった方々へのご挨拶、などなど。新規プロジェクトを立ち上げる時は、いつも大変ですがわくわくします。そうこうするうちに、構想から約1年後に何とか無事にオフィスのオープンが実現し、ツアーのサポート体制を拡充しました。お立ち寄りいただいたお客様には、スタッフが熊野古道を歩くルートについてのご質問にお答えしたり、ツアー行程に関して何でもご相談を承っています。また今では地域の一員としてすっかり集落に馴染み、オフィスは個性あふれる地元の方々の憩いの場となっていて、コミュニティとのつながりを体感できる場所としてもご利用いただいています。

 

熊野古道支店のスタッフ紹介

 

お客様の現地サポートを担当しているスタッフは現在3人、その中でこちらは常勤の内田さん。地元である神奈川に定住することなく、カナダ、オーストラリア、フランスと様々な場所でノマド的な生活をしてきました。国内でも京都に住んだり福岡住んでみたり、挙げるとキリがないほどですが、この度ようやく世界遺産の巡礼地、熊野に辿り着き遊牧民的な暮らしから一旦離れて定住することになりました。

 

新しい経験や体験、知識に貪欲で、これまでも国内外で添乗員やツアーガイドといった旅行に関わる仕事に携わり飛び回ってきましたが、中でも特に好きな観光地は、日本神話に関連する地域ばかりで、かなりマニアックな一面を持っていたりします。もともと熊野古道についても詳しく、そして熊野古道支店では、さらに深い知識を身近で得る機会にも恵まれて日々アップデート中。見かけ以上に体力もあり、熊野古道・中辺路ルートでのお気に入りは1番ハードといわれている大雲取越です。加えて週に1回は入らないと落ち着かないほどの温泉好きなので、名湯・秘湯が豊富な熊野古道は体が馴染む場所とのこと。おまけにどういった偶然か、神奈川県の小田原にある実家はみかん農家、小田原の名産はウメと、和歌山名産との共通点がいくつもあり、来るべくして来たような不思議な縁を感じているようです。内田さん、これからも期待しています!

 

 

近露(ちかつゆ)地域の方々

 

また、オフィスができたことにより親しくなった地域の方々はたくさんいるのですが、例えばこちらは集落で生まれ育った尾中さん。村の景観保全のため、放棄された田畑の維持に長い間仲間と一緒に尽力されてきた方です。近露ファーマーズチームの隊長さんとして活動されていて、熊野古道を歩く人々は、このような一見外からは見えない地元有志の地道な活動の恩恵を受けています。熊野古道オフィスには高頻度でお邪魔されるからか、奥ジャパンのスタッフと間違われることも。お世話好きでお客様をのどかな田園風景の広がる里山歩きに連れて行ってくれたり、超おいしい巨大ブルベリーの実る無償の果樹園に案内してくれたりと、なんでこんなに親切なのかと驚かされます。

 

けれども実のところいつも保全活動にお忙しいため、ツアーに含まれるものの中に尾中さんは記載されていません。つまり確約できない、なんとなく出現するかも、という少し曖昧な尾中さんとふれあう体験は、ツアーの中に組み込むことが難しいのです。とはいえ、実際はこれまで高確率で遭遇できているのですが、そもそも旅で人と出会う偶然、それを味わうことが私たちのツアーの醍醐味であり、最初から最後までパンフレット通りにきっちりと記載されているサービス内容だけ、というのは面白みに欠けると考えています。このように私たちは地域とのつながりを大切にしながら、旅の中に「隠れた仕組み」をそっと仕込んでいるのですが、よく考えると、費用対効果が高くないことを一生懸命やっていることも確かですので、奥ジャパンはちょっと変わった旅行会社かもしれませんね。

 

 

熊野古道オフィス開設から今年で7年目。あっという間でしたが、気が付けばこれまで地元の方々にお世話になりっぱなしでした。いつも申し訳ないと思いながらも、つまるところ、私たちの使命は、お客様にとって一生の思い出となり、かつ地域のためになる持続可能な旅を提供し続けることです。しかし、言うは易く行うは難し。このテーマを書くと長くなるので、このお話しはまた次回に・・・