中山道街道歩き ~馬籠宿から妻籠宿へ~

今年は梅、桜、ミツバツツジ、花桃が一気に咲き乱れて圧巻の春でした。そしていよいよ山々の緑も芽吹いてきました。新緑の中、外を歩くのは気持ちいいですよね!全国各地に大自然を楽しめるハイキングコースは多くありますが、一味違ったハイキング、浮世絵で見るような風景が残る中山道街道歩きはいかがですか? おすすめは、江戸時代の旅人と同じように自らの足で歩きながら往時の雰囲気を堪能できる、馬籠宿から妻籠宿の約8キロのコースです!

 


 

中山道はかつて京と江戸を結ぶ約530キロ、69の宿場町が置かれた五街道の一つです。その内、長野県塩尻市から岐阜県中津川市までの約80キロは木曽路と呼ばれ、2016年に日本遺産として認定されました。「木曽路はすべて山の中である」の書き出しで有名な島崎藤村の小説『夜明け前』は、木曽路の南端に位置する馬籠宿を舞台に描かれています。馬籠宿は江戸から数えて43番目、妻籠宿はその隣の42番目の宿場町です。

 

この8キロの馬籠~妻籠間のルートは、標高790mの馬籠峠という峠越えがあるものの、累積標高差が+326m / – 430mと、全体的にはアップダウンがそれほどなく、歩き慣れていない方も楽しむことができます。装備としては、長袖、長ズボンにハイキングシューズ、雨天時に備えての雨合羽があれば大丈夫です

 

馬籠と妻籠、どちら側から歩くかは好みによりますが、標高が高い馬籠からの方が比較的楽に歩けます。東京と大阪からは日帰りも可能で、午前 6時頃の新幹線に乗ると、9時半頃には馬籠宿に到着します。馬籠から妻籠間のハイキングは約3時間ですので、休憩や宿場町での観光時間を考慮すると、これくらいのスケジュールが理想です。

 

 

馬籠宿からスタート!

 

スタートの馬籠宿へは、中津川駅からバスで約25分。山の尾根に沿った急斜面に位置する馬籠宿は、全国でも珍しい坂道の宿場町となっています。

 

馬籠バス停に着いた後は、馬籠宿の入口から坂道を上っていきます。寄り道するところはたくさんありますが、生家跡に建てられた島崎藤村記念館には立ち寄りましょう。急な坂は10分ほどで緩やかな上りになり、坂道を上りきると絶景、恵那山が一望できる展望台に到着します。そこで少し休憩した後は、ゆるやかな上り下りを繰り返し馬籠峠を目指します。

 

 

展望台から1時間弱で馬籠峠に到着、そしてほどなくして江戸時代より旅人の疲れを癒してきた一石栃立場茶屋という休憩所に辿り着きます。桧笠をかぶった地元の案内人が、お茶とおいしい手作りのお漬物でおもてなしをしてくれるので、ほっと一息つくことができます

 

さらに1時間ほど歩くと、男滝女滝と呼ばれるふたつの滝が見えてきます。ここは小説「宮本武蔵」(吉川英治著)で武蔵とお通のロマンスの舞台になりました。水量も多く、暑い日は滝に近づいて思いきり水しぶきを浴びると気持ちよく、小休憩のおすすめスポットです。また周辺に自生する木曽五木(ヒノキ、サワラ、アスナロ、ネズコ、高野槇)、これらの伊勢神宮にも奉納されている良質な樹木たちも気にかけて観察してみてください。石碑など随所に歴史を感じられる街道歩きですが、木曽五木をはじめ、自然豊かなところも見所のひとつです。

 

 

男滝女滝を過ぎると、15分ほどで大妻籠に到着。ここは旅籠が集まる集落ですが、その中のひとつ、つたむらやさんの手作りのどぶろくは超おすすめ。男滝、女滝という名前で2種類あり、そこの清水と地元で採れる米・麹で味わいを醸し出しています。ここでしか購入できないので、気になる方は立ち寄ってみてください。

 

大妻籠を過ぎるとゴールの妻籠宿は目の前。日本の町並み保存の原点であるこの場所は、50年前に「売らない、貸さない、壊さない」という住民憲章を作りました。従来の文化財保護だけでなく、周辺の自然環境も含めた景観保存が必須という理念のもと、昭和 51年重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。全国でも類をみない 1,245ヘクタール もの広大な地域が対象になっています。

 

妻籠宿の過ごし方

 

ところで、ゴールの妻籠宿に着いたら、ほっとして小腹が空くころでしょうか。この辺りは栗の名産地。年中食べられる栗きんとんはじめ、夏は冷やして食べる葛で包んだ栗きんとん、秋には干し柿に栗きんとんを包み込んだお菓子、冬は栗ぜんざいと季節ごとに色々な栗が食べられるので、栗好きな方は覗いてみてくださいね。

 

 

前述の通り、ここは日帰りも可能な街道歩きのルートですが、ゆっくりしたい方には終点の妻籠宿に泊まるのもおすすめです。江戸時代の旅籠を味わえる旅館・民宿が妻籠宿には4軒、近くの大妻籠には5軒あり、昔ながらの暖かいおもてなしで迎えてくれます。山菜、キノコ、信州サーモン、イワナ、そば等、地元産の素材をメインにそれぞれのお宿で作られる心のこもったお料理は、江戸時代と変わらず、歩き疲れた旅人を癒してくれます。また木曽路は良質な水が豊富で、清酒の醸造も盛んな地域ですので、おいしい地酒を飲みながらの夕食は格別ですね。そして、夕食後の夜の宿場町は、泊まる方だけが味わえる特典。旅籠の浴衣を着て電柱がない行燈だけが灯された、静寂な町並みをそぞろ歩くのも粋な夜の過ごし方です。

 

 

と色々と語ってしまいましたが、実のところ私は妻籠に移住してくるまで街道歩きにはあまり関心がありませんでした。妻籠宿(つまごしゅく)を正しく読めなかったくらいです(笑)。しかし、奥ジャパンのツアーで提供している、馬籠から妻籠への街道歩き、そしてその後の妻籠~野尻、藪原〜奈良井、軽井沢〜横川、全て歩いてみると目からうろこ。街道歩きという旅のカタチに魅了されました。自然や歴史を楽しむのはもちろんのこと、自分の足で歩くからこその達成感、そこで出会う人たちとの出会いは唯一無二の思い出になります。地元の方から「どこから来たの?」と話しかけられたりと、他愛もない会話だったりするのですが、なぜかそれらの小さな出会いをずっと憶えています。これからも、多くの方々に中山道へお越しいただき、それぞれの街道歩きの楽しみ方を見つけてもらえればとてもうれしく思います。