中山道妻籠支店

中山道(なかせんどう)は京と江戸を結ぶ全長約530キロ、かつては69宿もの宿場町が置かれた、江戸時代の五街道の一つです。山側を歩く中山道に対して、海側には53宿ある約490キロの東海道がありますが、当時は川が氾濫するなどして足止めに遭うことが頻繁にありました。そのため、皇女和宮をはじめ降嫁のために江戸に向かう女性達は、東海道ではなく、予定通りに旅を進められる中山道を歩くことが多く、別名、姫街道とも呼ばれていました。

 

妻籠宿(つまご)の保全活動

 

長い中山道のうち長野県塩尻市から岐阜県中津川市を通る約80キロ、11宿。ここは木曽路と呼ばれ2016年に日本遺産に認定されました。木曽路の南端に位置するのは江戸から43番目の馬籠宿(まごめじゅく)、そして妻籠宿(つまごじゅく)はそのすぐ隣の宿場町です。

 

江戸時代の町並みという貴重な財産を後世に伝えるため、保存運動が盛んな妻籠宿では、「売らない、貸さない、壊さない」の厳しい3原則が50年以上守られています。そのため妻籠の住人でない者がオフィスを構えることは、許されなかったのですが、飲食店や宿泊業などの直接的な商売はしないこと、そして地域の一員となって活動するという約束の元、構想から約5年の歳月をかけ、前例がない旅行会社である私たちのオフィスの開設が、2019年8月に実現しました。その際にご尽力いただいたのが、妻籠宿の保存活動で中心的な役割を担っている公益財団法人、妻籠を愛する会の藤原義則理事長でした。

 

 

 

藤原さんは、献身的に妻籠宿の保存活動に精力的に取り組まれ、公益財団法人日本ナショナル・トラスト協会の常務理事も兼務されています。海外在住経験が豊富で、そこで培われた国際的な視野が、妻籠の保存活動へ対するぶれない姿勢につながっているように思います。地域の歴史・文化に造詣が深いだけでなく、釣りや山菜採りを楽しむことも忘れない人生の達人です。支店開設の恩人というだけでなく、尊敬の念が尽きない方です。

 

 

中山道妻籠支店の開設目的

 

支店開設の第一の目的は熊野古道オフィスと同様、街道を歩くお客様のサポートです。馬籠から妻籠までは、整備の行き届いた道ではありますが、石がゴロゴロしている下り道や雨で濡れた石畳は滑りやすかったりと、歩きにくい箇所があったりもします。しかし、そうした際にも近くに支店があれば、万全のサポートを提供することが可能ですし、現地にいるからこそお役に立てることがあるかと思います。些細な疑問やお困り事なども承りますので、安心して快適な旅をお楽しみいただくことが可能です。

 

地域の一員としての中山道妻籠支店

 

そして、中山道妻籠支店開設のもう一つの大切な目的は、地域の一員となって、妻籠宿、ひいてはより広いエリアである木曽路の課題を見つけ出し、その解決に取り組むことです。言うは易し行うは難しですが、地域の歴史・文化の保全に貢献するサステナブルな旅をお客様に提供するためには、とても重要なことと考えています。

 

中山道妻籠支店の活動の一端をご紹介すると、まずは妻籠宿内の公衆トイレ掃除。訪問いただいた旅行者の方々が不快な思いをしないよう、奥ジャパンを含んだ妻籠観光協会の会員である事業者が、交代でいつもきれいなトイレをご利用いただけるように力を入れています。また妻籠宿本陣の隣りにあるふれあい館では、ひな人形や5月人形など、季節に応じた展示をしていますが、その準備や片付けも観光協会の会員が本業の合間を縫って行っています。加えて、宿場町の町並みだけでなく、その周辺の山や川を含んだ自然環境も保存区域に指定されているため、外来植物(特定外来生物)のオオハンゴウソウなどの除去作業も妻籠を愛する会のメンバーを中心に地域で協力して行います。

 

 

そして、それとは別に近隣地区の共同作業、草刈りにも出ます。冬には「火の用心」と声をかけながら、拍子木を打って夜回りもしました。火が出たら、木造建築の妻籠宿はひとたまりもありませんので、とても大切な仕事です。拍子木を打って夜の宿場町を歩くと本当に江戸時代にタイムスリップしたような気分になります。

 

このような活動を通して、地域の方々と関係を深めていくことは楽しいものです。作業後には、飲み会もセットで付いてくることが多いのですが(笑)。「どう、この後一杯?」といつも声をかけてくださるのが、妻籠宿にある甘味処のゑびやの平田伊知郎さん。妻籠を愛する会の理事でもある伊知郎さんは、妻籠宿で商売をする上で、何よりも大事なことは妻籠宿の保存、という信念の持ち主。また陣屋太鼓というグループを率いて、地域のイベントでは太鼓の演奏に汗を流しています。何に置いても地域が一番という姿勢には本当に頭が下がります。

 

 

2019年10月には、妻籠宿のある南木曽町に誕生した一般社団法人、南木曽町観光協会の理事に奥ジャパンも就任し、妻籠宿だけでなく南木曽町という地域全体を見据えての観光に関わっていくようになりました。私たちは唯一の外部からの事業者ですが、地域のみなさんにご協力いただきながらも、新しい観光事業者が拠点を置いて正しく活動することで、地域にもより活力が出てくるのではないかと考えています。

 

中山道妻籠支店のスタッフ紹介

 

最後に私の自己紹介を。埼玉県出身、長野県に移住したいという希望が実現し、長野市を経て妻籠にやってきました。水が合うという言葉がありますが、妻籠は本当に暮らしやすい、なんかしっくりくる土地だなあと感じています。半分仕事という名目で時間が許せば、妻籠宿から馬籠峠までの山道をジョギングしています。お客様の現地サポートのためには、何度も足を運ぶことでコースを熟知し、その上できめ細やかなおもてなしができると考えています。

 

 

また、コロナ禍の中、地域のために何かできないかという想いを形にしたいと思い、「そうだ、ボランティアを呼んで、中山道の整備をしよう!」というアイデアがジョギング中に浮かんできました。

 

 

そして妻籠を愛する会のご協力を得て、中山道整備に取り組む合宿型のボランティア活動、ワークキャンプを2020年の10月に開催しました。幅広い年代のボランティアと奥ジャパンのスタッフ総勢約25名が参加し、眺望を確保するための雑草・雑木の伐採、水切りの補修、トイレ掃除等を行いました。コロナ禍のためにまだ1回しか実施できていませんが、状況が改善すれば、すぐにでも再開したいと思っています。その際にはSNSなどで告知いたしますので、ご興味のある方は奮ってご参加の程よろしくお願いいたします!